Vol.44 風光明媚な珠玉の小島、イゾラベッラ
シチリア のバイオアーキテクチャの草分け、当時のハイテクヴィラだった
タオルミーナの名所の一つにイゾラベッラがあります。
イゾラベッラIsola Bellaとは美しい島という意味ですが、風光明媚な美しい景勝地です。
島というよりも、浜から小石浜の砂州で繋がって張り出した半島といった感じで、干潮時には砂州が海面より高くなって島と海岸線が繋がります。
イゾラベッラは、もともと対フランス戦役で常にナポリ王国に忠誠を尽くしてきたタオルミーナへの感謝の印として、1806年にブルボン家のフェルディナンド王より賜ったものです。
フェルディナンド王はシチリア王としてはフェルディナンド3世、ナポリ王としてフェルディナンド3世、そして両シチリア王国王としてフェルディナンド王1世(1816年から)と複数のタイトルを持っています。タオルミーナのメッシーナ門はフェルディナンドに捧げて作られたものですが、「フェルディナンド4世」と刻まれています。ナポリがフランスに乗っ取られてナポレオンの義弟ミュラがナポリ王と称していた時期です。あえてナポリ王を意味するフェルディナンド4世と刻んでいる、タオルミーナの忠誠心はそんなところからも伺えます。
余談になりますが、このフェルディナンド王のお妃がハプスブルグ家のマリア・カロリーナ、かの有名なマリーアントワネットのお姉さんです。お妃の妹夫婦であるフランス国王夫妻がフランス革命でギロチンによって処刑されただけでも震え上がるものでしたが、ナポレオン率いるフランスはイタリアに進出、王もナポリを後にせざるを得ず、シチリアに退避してきました。ナポレオンが失脚し、ウィーン会議でフェルディナンドの復権が認められるまで、王はシチリアにいました。しかし、結局はナポリに戻って、両シチリア王国フェルドナンド1世となるのです。(1816)
そんなわけでこの島はタオルミーナの所有となりました。
そして、1890年にフローレンス・トレヴェリヤン夫人が買い取り、タオルミーナをとりまく山々と同じようにオリーブ、糸杉や椰子、地中海松などを植えました。
トレヴェリヤン夫人はここに小さな東屋を建て、日中の大方をここで過ごしていたそうです。
彼女の死後、遺言により島は夫であるサルヴァトーレ・カチョーラ氏が相続。カチョーラ氏が1927年に没すると、島を相続した甥が、ロ・トゥルコLo Turco家に売却しました。
島は建設が禁止されたために50年ほど放置されたままになり、地元漁師たちが勝手に利用していました。
1938年、メッシーナのボスルジ家の未亡人2人の息子レオとエミリオが海で遊ぶのにちょうど良いと、ロ・トゥルコ家から島を買い取りました。
その後1954年にボスルジ兄弟が相続します。兄弟はメッシーナに本社、ロンドンとキューバに支社を持つオレンジ濃縮果汁の生産と輸出を行うサンダーソン社を経営する実業家でした。
ボスルジ兄弟の特にエミリオ氏が、この島にとても愛着を持っていて、ここに屋敷を建設することにしたのです。
島の自然を生かし、自然光を取り入れ、島の外観を損なうことなく、石を一つ一つ積み上げてこの内階段や外階段で部屋と部屋を繋ぎ、シチリアで最初のバイオアーキテクチャーとも言われる屋敷を完成させました。
この石の扉も周りの壁と同じように石で覆われていて、閉まっているとそれと気づかず、行き止まりかと思ってしまう、秘密の扉です。
この扉は建設当時では珍しかった油圧式で開閉するもので、重そうに見えますが、手で押すとスーッと開くようになっています。当時ではかなりのハイテクですね。
また淡水も引き入れられたので、豊かな植物相、動物相が現代に至るまで守られています。
1960年代からタオルミーナでは映画祭などが行われていたので、イタリアの名優はもちろんハリウッドのスターたち(グレゴリー・ペック、オードリー・ヘプパーン、エリザベス・テーラー、など)もやってくる華やかな時代でした。ドルチェヴィータそのものの世界がここで繰り広げられていたのです。当時子供だった私の友人は、「その時代、タオルミーナは何か魔法にかかったように輝いていた。自分も大人になったらタキシードをきて美しい女性を伴って出かけるのだと思った」そうです。
イゾラベッラでもいくつもの映画のシーンに登場しています。
その様子は、https://www.youtube.com/watch?v=QoObbZ2Gx4
ISOLA BELLA, ANZI BELLISSIMA(美しい、いや美しすぎる島)
ボスルジ家は芸能人や実業家などを招くなどの社交生活を繰り広げていたのですが、会社が倒産し、イゾラベッラは競売にかけられます。1985年、5,500,000,00リラの高額で数年間買い手がつかなかったのですが、自然、芸術、歴史的意義のあるこの島が投機対象になるのを怪訝したシチリア州が1990年7月にイゾラベッラを取得しました。
実際イゾラベッラは1983年にUNESCOも注目、1984年にWWFタオルミーナを設立し、1986にイゾラベッラ海岸を守るべき環境に指定、1990年にシチリア州が購入した1990年7月までに自然保護地区に指定されました。
海も住んでいて綺麗です。シュノーケリングでもたくさんの魚が見られます。
たまにクラゲもいますので十分注意を!
イゾラベッラへの行き方 FUNIVIEマッツァロー駅から徒歩5分
イゾラベッラ Isolabella
年中無休 9:00―日没まで 入場料 €4 (2020年8月1日現在)
※干潮時には砂州で島と海岸が繋がりますが、通常は島に渡るのに浅瀬を歩きます。濡れても良い、また滑りにくいサンダルなどの靴、タオルなどを用意しておくと良いです。
美しいイゾラベッラの様子はYouTubeでも紹介しています!
- Author Profile
原 志津子/shizuko hara
シチリア州公認ガイド、日本語通訳。 当地在住14年(2016年時点)になりますが、歴史と文化の薫る、美しい自然のシチリアが大好きです。
日頃よりシチリアを中心に旅行客の皆様をご案内しながら、 素晴らしいシチリアの魅力を少しでも多くの皆様に知ってもらいたいと思っています。
自らも、おいしいものと旅が大好きで、愛車TOYOTA YARISでシチリア中をまわり歩く個人旅行者です。
趣味はシチリアの豊富な食材を使った料理で、得意料理はイカスミリゾット、カポナータ。
http://www.shizukohara.com/